悪魔の赤ちゃん

フランクとレノア・デイヴィス夫妻は第二子の誕生を待ち望んでいたが、出産の直後に想像を絶する事件が起こる。新生児は忽然と姿を消し、その代わりに病院内には五人の遺体が残されていた。平穏だった家庭と日常が一瞬で壊され、夫妻は恐怖と混乱の渦に投げ込まれる。

警察とフランクは消えた「子ども」を追い、次第にそれがただの赤ん坊ではないことを思い知らされる。変異した存在は予測不能な凶暴性を示し、捜索は生存と倫理の境界を揺さぶる。親としての愛情と社会の安全を守る責任が衝突し、フランクの決断は観客に重い問いを投げかける。

作品は単なるモンスター映画にとどまらず、異質なものへの恐怖と排除のメカニズムを鋭く描く。1970年代の不安を反映した暗い雰囲気と実験的な演出が、じわじわとした緊張感を生み出す。特殊効果や病院という閉ざされた空間が、物語の狂気を生々しく浮かび上がらせる。

ラストに残るのは解決でも救済でもなく、複雑な感情と言葉にしがたい余韻だ。家族愛と社会的恐怖の狭間で揺れる人物たちの姿が、観る者に忘れがたい衝撃を与える。恐怖映画としてだけでなく、人間性と道徳を問い直す一作である。