The Tingler

1959年のホラー映画「The Tingler」は、恐怖という感覚を科学的な視点で描いた異色作です。物語は、脊髄に寄生し人間の恐怖によって増殖するという奇妙な生物を発見した病理学者を中心に進みます。彼はその生物を「ティングラー」と名付け、恐怖が抑えられると人間が重大な危機に陥るという仮説を立てます。

ある聾唖の女性を使った実験は、この仮説の核心を突きます。彼女は恐怖を感じても叫ぶことができず、叫び声による発散がないことでティングラーの作用が抑えられないという設定は、見る者に強い緊張感と不安を与えます。科学的探究と倫理の境界が曖昧になるなか、実験は予想外の結果と悲劇を招きます。

この作品は、恐怖を単なる心理現象ではなく身体に影響を与える実体として描くことで独特の恐怖感を生み出します。人間の本能である「叫ぶ」行為が生死を分けるという発想は、観客に生理的な反応を促しつつ、恐怖の扱い方について問いを投げかけます。映画全体はスリルと不気味さを巧みに織り交ぜた作りで、古典ホラーの中でも根強い印象を残す作品です。