早春

1956年の小津安二郎作品『早春』は、若い東京のサラリーマンとその妻が、情熱を失った結婚生活の中でぎこちなく日々をやり過ごす様子を静かに描く物語です。夫は職場の飲み会や同僚との付き合いを通じて心の隙間を埋めようとするが、やがて外に向けた関係に逃げ、妻との間に深いすれ違いが生まれていく。表面的には平穏に見える生活の裏で、欲望や不安、孤独が静かに積もっていく様が丁寧に映し出されます。

小津ならではの抑制された演出と間の取り方が、登場人物たちの微妙な感情の変化を際立たせます。大きな波乱や劇的な解決はないものの、日常の細部を通して人間関係の脆さと現代社会における孤立感が鋭く浮かび上がり、見る者に静かな余韻を残します。