エロール・モリス監督がカメラを向けるのは、元スパイであり世界的な作家ジョン・ル・カレ(本名デイヴィッド・コーンウェル)の波乱に満ちた人生と創作の軌跡だ。冷戦の影で培われた経験や裏切りの感覚が、彼の物語世界にどのように息づいているのかを丁寧に掘り下げ、作家としての葛藤と人間としての孤独を静かに映し出す。
映像は過去と現在を行き来しながら、真実と虚構、倫理と欺瞞の境界を問いかける。ル=カレの作品を愛する者にも、彼の人生を初めて知る観客にも響く、知的で感情に訴えるポートレイトになっている。